古文の「なり」には、断定・存在の助動詞「なり」と伝聞・推定の助動詞「なり」の二つがあります。さらに、形容動詞の活用語尾や動詞「なる」の「なり」もあるので、見分けがむずかしい語の一つです。
このページでは、二つの助動詞「なり」の意味・接続・活用を確認したうえで、接続 → 撥音便 → 文脈の順に見分ける方法を、教科書でおなじみの例文で説明します。
二つの助動詞「なり」
断定・存在の「なり」
意味 断定(〜だ・〜である)/存在(〜にある・〜にいる)
接続 体言・活用語の連体形。「ばかり」「のみ」などの助詞にも付く
| 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
|---|---|---|---|---|---|
| なら | なり・に | なり | なる | なれ | なれ |
活用は形容動詞(ナリ活用)と同じ型です。連用形「に」は、「にあり」「にや(あらむ)」「にこそ(あらめ)」「にて」の形でよく出ます。
断定は「〜だ・〜である」と訳します。連体形に付くときは「〜のだ・〜のである」と訳すと自然です。
- おのが身はこの国の人にもあらず、月の都の人なり。(竹取物語)
私はこの国の人ではない。月の都の人である。 - 男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。(土佐日記)
男の人も書くと聞く日記というものを、女である私も書いてみようと思って書くのだ。(サ変動詞「す」の連体形「する」に付く) - それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。(竹取物語)
それを見ると、三寸ほどである人が、たいそうかわいらしい様子で座っている。(副助詞「ばかり」に付く)
存在は、場所を表す語に付いて「〜にある・〜にいる」の意味になります。連体形「なる」の形で、下に体言が続くことが多いです。
- 天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも(古今和歌集)
大空をはるかに見わたすと月が出ている。あれは故郷の春日にある三笠の山に昇っていた月と同じなのだなあ。 - 駿河なる宇津の山べのうつつにも夢にも人に会はぬなりけり(伊勢物語)
駿河の国にある宇津の山、その「うつ」の名のように、うつつ(現実)にも夢にもあなたに会わないのだったよ。
伝聞・推定の「なり」
意味 伝聞(〜そうだ・〜という)/推定(〜ようだ・〜が聞こえる)
接続 活用語の終止形。ただし、ラ変型に活用する語には連体形に付く
| 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
|---|---|---|---|---|---|
| 〇 | (なり) | なり | なる | なれ | 〇 |
活用はラ変型です。未然形・命令形はなく、連用形もほとんど使われません。
この「なり」は「音あり」がつまってできた語と考えられています。そのため、耳で聞いたことをもとにした判断を表します。
-
伝聞 人から聞いた話・うわさ。「〜そうだ」「〜という」と訳す
-
推定 実際に聞こえる音・声をもとにした判断。「〜ようだ」「〜音(声)が聞こえる」と訳す
-
男もすなる日記といふものを、(土佐日記)
男も書くという日記というものを、(伝聞) -
世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、(更級日記)
世の中には物語というものがあるそうだが、それをどうにかして読みたいものだと思いながら、(伝聞) -
秋の野に人まつ虫の声すなりわれかと行きていざとぶらはむ(古今和歌集)
秋の野で「人を待つ」という名の松虫の声が聞こえる。私を待っているのかと、さあ行って訪ねよう。(推定) -
笛をいとをかしく吹きすまして、過ぎぬなり。(更級日記)
笛をたいそう趣深く澄んだ音で吹いて、通り過ぎてしまったようだ。(推定。笛の音が遠ざかるのを聞いている)
土佐日記の冒頭の一文には、二つの「なり」がそろって出てきます。「すなる」はサ変動詞「す」の終止形に付くので伝聞、「するなり」は連体形「する」に付くので断定です。
識別のしかた
1 直前の語の活用形で見分ける
いちばん確実なのは、「なり」の直前の語が何形かを見る方法です。
これが使えるのは、終止形と連体形の形がちがう語に付くときです。上二段・下二段・カ変・サ変・ナ変の動詞や、助動詞の「ぬ」「つ」などは、終止形と連体形の形がちがうので、接続だけで決まります。ただし、ラ変型に活用する語(形容詞のカリ活用、打消「ず」の「ざる」など)は、伝聞・推定の「なり」も連体形に付くので、次の2で見分けます。
| 直前の語 | 終止形+なり(伝聞・推定) | 連体形+なり(断定) |
|---|---|---|
| サ変「す」 | すなり・すなる | するなり |
| ナ変「去ぬ」 | 去ぬなり | 去ぬるなり |
| 完了「ぬ」 | 過ぎぬなり | 過ぎぬるなり |
| 打消「ず」 | ざ(ん)なり(→2) | 会はぬなり(「ぬ」は「ず」の連体形) |
- 「火危ふし」と言ふ言ふ、預かりが曹司の方に去ぬなり。(源氏物語)
「火の用心」と言いながら、管理人の部屋のほうへ去っていくようだ。(ナ変「去ぬ」の終止形+推定) - 侍従の大納言の御女なくなり給ひぬなり。(更級日記)
侍従の大納言の姫君が、お亡くなりになったそうだ。(完了「ぬ」の終止形+伝聞) - 夢にも人に会はぬなりけり(伊勢物語)
夢でもあなたに会わないのだったよ。(打消「ず」の連体形「ぬ」+断定)
同じ「ぬなり」でも、「ぬ」が完了の終止形なら伝聞・推定、打消「ず」の連体形なら断定になります。「ぬ」の識別は「ぬ」「ね」の識別で確認してください。
2 撥音便(とその無表記)に付く「なり」は伝聞・推定
伝聞・推定の「なり」は、ラ変型に活用する語(ラ変動詞・形容詞のカリ活用・助動詞「ず(ざる)」「たり」「べし」「なり」など)には連体形に付きます。すると断定の「なり」と同じく連体形接続になりますが、このとき連体形の語尾「る」が撥音便「ん」になり、さらにその「ん」が書かれないことがよくあります。
| もとの形 | 撥音便 | 「ん」を書かない形 |
|---|---|---|
| あるなり(ラ変「あり」) | あんなり | あなり |
| 多かるなり(形容詞) | 多かんなり | 多かなり |
| ざるなり(打消「ず」) | ざんなり | ざなり |
| たるなり(完了「たり」) | たんなり | たなり |
| べかるなり(「べし」) | べかんなり | べかなり |
| なるなり(断定「なり」) | なんなり | ななり |
- 海賊は夜歩きせざなりと聞きて、(土佐日記)
海賊は夜には出歩かないそうだと聞いて、(打消「ず」の連体形「ざる」の撥音便の無表記+伝聞) - 守の館より、呼びに文持て来たなり。(土佐日記)
国守の官舎から、呼びに手紙を持って来たようだ。(完了「たり」の連体形「たる」の撥音便の無表記+伝聞・推定) - 猫の経上がりて、猫またになりて、人とることはあなるものを。(徒然草)
猫が年を経て猫またになって、人を取って食うことがあるというのになあ。(ラ変「あり」の連体形「ある」の撥音便の無表記+伝聞)
「ななり」は、はじめの「な」が断定の「なり」の連体形「なる」の撥音便の無表記、あとの「なり」が伝聞・推定です。「なめり」(断定+推定「めり」)と同じつくりで、「〜であるようだ」「〜だそうだ」と訳します。
撥音便にならずに「あるなり」「侍るなり」の形で出てくる「なり」は、断定のことも、「駿河の国にあるなる山」(竹取物語、伝聞)のような伝聞・推定のこともあります。形だけでは決められないので、最後は文脈で確かめます。
3 形で決まらないときは文脈で見分ける
四段活用(a・i・u・u・e・e)は終止形と連体形が同じ形です。上一段・下一段も同じです。そのため、これらの動詞に付く「なり」は、接続だけでは決まりません。撥音便にもならないので、文脈で判断します。
-
近くに音・声・鳴く・聞こゆなどがあり、耳で聞いたことにもとづく → 推定
-
「〜と聞く」「〜と言ふ」など、人から聞いた話・うわさ → 伝聞
-
「〜のだ・〜のである」と説明・断定している → 断定
-
世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(千載和歌集)
世の中には逃れる道がないのだなあ。思いつめて入った山の奥にも、鹿が鳴いているのが聞こえる。(四段「鳴く」+推定。「ぞ」の結びで連体形) -
夕されば野辺の秋風身にしみてうづら鳴くなり深草の里(千載和歌集)
夕方になると、野辺を吹く秋風が身にしみて、うずらが鳴いているのが聞こえる、この深草の里よ。(推定) -
衣着せつる人は、心異になるなりといふ。(竹取物語)
天の羽衣を着せられた人は、心が(人間とは)別のものになるのだという。(四段「なる」の連体形+断定)
補助の目安 「なり」の下に「けり・き・けむ・む」などの助動詞が続くとき(なりけり・ならむ など)は断定です。伝聞・推定の「なり」には未然形がなく、下に助動詞が付くことはほとんどありません。ただし逆に、「下が助動詞でないから伝聞・推定」とは言えません(「なれば」「なるを」は断定にもよくある)。
係り結びにも注意 「鹿ぞ鳴くなる」のように、伝聞・推定の「なる」「なれ」が係り結びの結びになることはよくあります。しかし、「人は、みめをかしきことをこそ好むなれ」(堤中納言物語「虫めづる姫君」、人は見た目の美しいものを好むものだ)のように、断定の「なり」も結びになります。結びになっていることだけでは決められないので、接続と文脈で確かめます。
4 助動詞ではない「なり」と見分ける
| 種類 | 見分け方 | 例 |
|---|---|---|
| 形容動詞の活用語尾 | 「なり」の上が物事の様子を表す語で、「いと(とても)」を上に付けても意味が通る | 飛び急ぐさへあはれなり(枕草子)→「いとあはれなり」と言える |
| 動詞「なる」(ラ行四段)の連用形 | 「〜になる」と訳せる。「に・と・く・ず」の下に来ることが多い | 火桶の火も白き灰がちになりてわろし(枕草子) |
| 断定の「なり」 | 体言(名詞)に付く。「いと」を付けると意味が通らない | 月の都の人なり(竹取物語)→「いと人なり」とは言えない |
くわしくは古典文法の識別「なり」でも、四つの「なり」を並べて確認できます。
よくある間違い・入試で問われるポイント
- 四段動詞+なりを「終止形だから伝聞・推定」と決めつけない。四段は終止形と連体形が同じ形なので、文脈で決める。
- 「あなり」「ざなり」「ななり」「たなり」は、撥音便の無表記に付く伝聞・推定。文法的説明では「ラ変動詞『あり』の連体形の撥音便の無表記+伝聞の助動詞『なり』」のように書く。
- 「ななり」のはじめの「な」は断定。二つとも伝聞・推定にしない。
- 「春日なる三笠の山」のような場所+なる+体言は、存在(〜にある)で訳す。
- 伝聞と推定の区別:人から聞いた話なら伝聞、その場で聞こえる音や声なら推定。
練習問題
「なり」の識別
伝聞・推定の「なり」と断定・存在の「なり」の接続を、それぞれ答えよ。
解答を見る
伝聞・推定の「なり」=活用語の終止形(ラ変型の語には連体形)。断定・存在の「なり」=体言・連体形(「ばかり」などの助詞にも付く)。
「あなり」の「なり」は、伝聞・推定と断定・存在のどちらか。また、「あなり」ができるまでの変化を答えよ。
解答を見る
伝聞・推定。「あるなり」→「あんなり」(撥音便)→「あなり」(「ん」を書かない形)。
「ななり」の二つの「な」「なり」を、それぞれ文法的に説明せよ。
解答を見る
「な」=断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の撥音便の無表記。「なり」=伝聞・推定の助動詞「なり」の終止形。(「なるなり」→「なんなり」→「ななり」)
係り結びの結びになっている「なる・なれ」は、それだけで伝聞・推定と決めてよいか。
解答を見る
決めてはいけない。断定の「なり」も結びになる(「みめをかしきことをこそ好むなれ」は断定)。接続と文脈で確かめる。
四段活用動詞に付く「なり」は、接続だけでは識別しにくい。四段活用のどの活用形とどの活用形が同じ形だからか。
解答を見る
終止形と連体形(どちらも u 段で同じ形になる)。
「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。」(土佐日記)の、最後の「なり」の意味と活用形を答えよ。
解答を見る
断定・終止形。サ変動詞「す」の連体形「する」に付いている。(前の「すなる」は終止形「す」に付く伝聞の連体形)
「海賊は夜歩きせざなりと聞きて、」(土佐日記)の「ざなり」を文法的に説明せよ。
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「ざ」=打消の助動詞「ず」の連体形「ざる」の撥音便の無表記。「なり」=伝聞の助動詞「なり」の終止形。
次の文を現代語訳せよ。
笛をいとをかしく吹きすまして、過ぎぬなり。(更級日記)解答を見る
笛をたいそう趣深く澄んだ音で吹いて、通り過ぎてしまったようだ。(「ぬ」は完了の終止形、「なり」は笛の音にもとづく推定)
「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」(古今和歌集)の「なる」の意味を答え、歌全体を現代語訳せよ。
解答を見る
存在。訳:大空をはるかに見わたすと月が出ている。あれは春日にある三笠の山に昇っていた月と同じなのだなあ。(場所+なる+体言)
次の「なる」「なり」を文法的に説明せよ。
①「山の奥にも鹿ぞ鳴くなる」の「なる」
②「飛び急ぐさへあはれなり」の「なり」
③「火桶の火も白き灰がちになりてわろし」の「なり」解答を見る
① 推定の助動詞「なり」の連体形(「ぞ」の結び。鹿の声を聞いている)
② ナリ活用形容動詞「あはれなり」の終止形の活用語尾(「いとあはれなり」と言える)
③ ラ行四段活用動詞「なる」の連用形(「〜になる」と訳せる)次の文を現代語訳せよ。
世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、(更級日記)解答を見る
世の中には物語というものがあるそうだが、それをどうにかして読みたいものだと思いながら、(「あん」はラ変「あり」の連体形の撥音便、「なる」は伝聞の連体形)